パンドラの鍵
「この写真――」
「見覚えありますよね。有馬教授なんですけど」
「えぇ」
彼女は食い入るように、その写真を眺めていた。
しかし、突如両手で顔を覆った。
「どうしたんですか?」
「大丈夫…、大丈夫よ」
彼女は自分に言い聞かせているようだった。
「この写真に何か?」
「えっ、いえ、そうじゃないの。ただ、奥様や坊ちゃんの顔を見た
ら…」
そう言うと、彼女は再び顔を覆った。
「彼らのことも知っているんですか?」
「えぇ、よく知っているわ。……さっき玄関で言ったでしょ。私が
現場にいたって」
「はい」
「実は私、この家で家政婦をやっていたのよ」
「家政婦を……」
「えぇ。ちょうどその頃、私の家計は息子を大学に出していて金銭
的に苦しくてね。それで家政婦を募集していた有馬さんの家で雇っ
てもらっていたのよ」
「そうだったんですか」