パンドラの鍵
本当のことを言うわけにもいかず、貴之は黙り込むしかなかった。
「答えられないことなの」
「そういうわけじゃないんですけど」
「彼、まだ大学で教えているのよね」
「あ、はい。でも……」
「でも……? 彼は元気なの?」
雨はますます激しくなっているようだった。窓ガラスを叩く音が、
貴之の耳にまで響いてくる――。
「行方不明なんです」
「えっ」
彼女の顔がサッと青ざめる。
「行方不明ってどういうこと?」
「それがもう二週間程前から、姿が消えてしまって。講義も途中で
投げ出したままで」
「二週間も前から、連絡もつかないの?」
「はい。だからこうして家を探しに……」
「そうだったの」
そう呟いた彼女の声は、憔悴しきっていた。
「どうして今頃になって……」
貴之はポケットの中から例の写真を取り出すと、彼女に見せた。