パンドラの鍵
「濡れてしまったわね」と、タオルをくれる。
「あ、どうも」
貴之は、手渡されたタオルで軽く頭を押さえると、上目遣いに彼女
を見つめた。
「なに?」
訝しげに訊いてくる。
「さっき、言っていましたよね。いつもここを通ると雨が降るって」
「あぁ、言ったかもしれないわね」
「あれってどういう…」
「そうね。なんて言ったらいいのか、「この町から出ていけ」と私
を脅しているとでも言えばいいのかしらね」
「この町が言っているんですか?」
「そう、と言っても信じないわね」
彼女はグラスを手に取ると、中の氷を覗き込んだ。
氷がカチリと音をたてて崩れる。
「ねえ、私からも一つ訊いていいかしら」
「はい…」
「あなたは学生さんよね?」
「そうですけど」
「どうして有馬さんの家を探していたの?」
「それは……」
貴之は返答に困った。どう言えばいいのか。