パンドラの鍵
そんな中を傘も差さずに歩いている二人。
どう見ても不釣り合いな組み合わせ。
他人の目からはどう見えるのだろうか……。
貴之は目の前から歩いてくる人影を眺めながら、ふと思った。
「ここよ。狭苦しいところで悪いんだけど」
木造の平屋の一戸建て。築五十年以上は経っているだろう。
古ぼけて、台風が来たら飛んでいきそうな家だった。
「いいえ、全然そんな…」
「そう、本当かしら」
と彼女は笑うと、玄関の戸をガラガラと開けて貴之を招き入れた。
「本当にお邪魔してもよろしいんですか? 誰かいるんじゃ…」
「大丈夫よ。どうせここに住んでいるのは私ひとりだけだから」
「えっ、そうなんですか? 家族は、離婚……」
思わず言ってはいけない言葉を口にしてしまい、貴之は気まずそう
に俯いた。
「すいません」
「いいのよ、同じようなもんだから。一応、今年で二十七になる息
子がいるんだけど、もうここへは顔も出してくれないし」
「ご主人は?」
「主人ねぇ。あの人はこの町に住んでいるのが耐えられなくて――」