パンドラの鍵
「なにをですか?」
「恐ろしいことよ。今から八年ほど前になるかしら…」
「八年前?」
「そうよ。ある事件がその家で」
「有馬教授の家で――」
そこまで言った時だった、
上空からポツポツと雨が降り始めた。
「いやだわ。いつもそうなのよ、私がここへ来ると必ず雨が降り始
めるの」
そう呟いた彼女の表情は、見えないなにかに怯えているようだった。
「これから時間ありますか?」
気付いたときには、貴之は見知らぬおばさんにそう尋ねていた。
「時間? えぇ、夕方までなら」
「もしよかったら、八年前のこと僕に教えてくれませんか?」
「八年前のことを、あなたに?」
「はい。無理でしょうか?」
「無理というわけでは………」
「お願いします」
貴之は頭を下げた。彼女はしばらく考えている風だったが、やがて
分ったと言うように頷いた。