パンドラの鍵
貴之は、しばらく二階の窓から目を逸らすことが出来なかった。
強い憎しみ、憎悪を感じる。
貴之は一歩、二歩と後ずさると、視線を振り払うかのようにくるり
と背を向け、その家から逃げ出した。
何かいる。あの家には何かいる。
それも何かとてつもなく邪悪なものが――。
貴之は後ろを振り向かなかった。
ひたすら前を見続けた。
午前中の恐怖が再び舞い戻ってくる。
それだけの何かが、あの家にはあった。
「す、すいません!」
通りを飛び出したところで危うく人とぶつかりそうになって、貴之
は反射的に頭を下げた。
足下にスーパーのビニール袋と、その中から飛び出してしまった品
物の数々が転がっている。
貴之はかがみ込むとそれらを拾い始めた。
にんじんにジャガイモ、シチューのルウ……。
「本当にすいません。身体、大丈夫ですか?」
「え、えぇ、私は…」
貴之はスーパーの袋に全てを戻すと立ち上がり、その袋を差し出し
た。