パンドラの鍵
空を見上げると、さっきまでサンサンと日差しを振りまいていた太
陽が、陰々たる雨雲の中に吸い込まれて行くところだった。
太陽が姿を消す。
その途端、町は黒いヴェールで覆われたかのように影を落とした。
町は闇に閉ざされた……。
急に気温も下がったような気がする。
貴之はシャツから飛び出している二の腕を、無意識のうちにさすっ
ていた。
鳥肌がたっている。
首筋がチリチリと痛い。
―――誰かが見ている。
突然そう感じた。
貴之は周りを見渡したが、それらしき人影は見あたらなかった。
しかし、この気味の悪い感覚……。
この場所に長くいてはいけない。
貴之の身体が、本能が告げていた……。
風もないのに、蔦の葉がゆらゆらと揺れている。
まるでこっちへ来いと貴之を誘っているかのようだ……。
二階の窓に黒い人影らしきものが動いた。
そして感じる視線。
貴之の様子をじっとうかがっているのか?