パンドラの鍵
教員名簿に書かれていた住所は過去のものだった。
じゃあ現在の住所は……。
なぜ、変更していない。
誰にも知られたくなかったからか?
もしそうならどうして……。
貴之の脳裏に様々な疑問が浮かんでは消えた。
はたして俺は沙織の住んでいる家さえ見つけられないのに、彼女に
逢うことが出来るのだろうか……。
貴之は不安な面もちで、廃墟と化した有馬邸を見上げた――。
何かがおかしい。何かが……。
貴之は漠然とこの町から、隠された秘密の香りを嗅いだような気が
した。
人が住んでいない家。
生活の臭いが消えてしまった家とは、なんて無惨にもその姿を変え
てしまうのだろう。
そう、始めから分かっていた。
この町に足を踏み入れた瞬間から……。
有馬教授の家だけではない。
両隣の家も、いや隣だけではない。
この辺り一帯に人の住んでいる気配が全く存在しないことに。
ゴーストタウン……。