パンドラの鍵
貴之は、あの恐ろしいほど存在感を与える男の言葉と、闇の中で交
わした契約を思い出していた。
“裏切るな”あの言葉に込められた意味……。
俺一人で、なんとしてでも秘密をあばかなければならない。
とりあえず、有馬教授を捜し出さなければ。
貴之はズボンのポケットから、思わず勢いで持ってきてしまった写
真を取り出すと、それを複雑な気持ちで眺めた。
沙織、おまえは一体何者なんだ?
思わず疑問が頭の片隅をよぎる。
有馬宗一郎の娘だと言った沙織。
外にはなかなか出してもらえないのと、哀しそうに微笑んだ沙織。
そして、教授の部屋にあったえたいの知れない髪の毛………。
何かが繋がりそうで、繋がらない。
貴之は、青痣になりそうな傷跡をぼんやりと見つめた。
沙織とはもう一ヶ月以上逢っていない。
貴之はあの電話の件以来、意識的に沙織が尋ねてくる研究室を避け
ていた。
お互いに連絡先も住んでいる所も知らなかった二人だ。
貴之があの場所に行かなければ、沙織に逢うこともなくなる。
そう分っていて取った行動だった。
俺は逃げ出した。沙織から……。