パンドラの鍵
時計を覗き込むと、もう一時近かった。
「授業あるんだろ」
「まぁ、あるといやーあるけど、そんな気分じゃねぇよ」
と、空を仰ぐ友也。
「出ろよっ。ただでさえ出席日数足りないんだからさ」
「おまえに言われたくねぇな」
と、友也は口を尖らせる。
「それもそうか」
二人は顔を見合わせると苦笑した。
友也が上体を起こしながら言う。
「とにかく、何をするつもりかしらねぇけど、一人で片を付けよう
とするなよ。俺ならいくらでもこき使っても構わないんだからな」
「ん、あぁ、言われなくてもこき使うさ」
「おぉ……」
友也はやっと安堵の笑みを浮かべると、衣服についた草を軽く叩き
落とした。
そしてやおら立ち上がると、
「じゃあ、ちょっくら現実の世界にでも戻って、頭冷やしますか」
と大声で言い、
「おまえだって授業出ろよな」
そう言い残し、講堂に向かって小走りに駆け出していった。
徐々に小さくなっていく背中。
貴之はそっと「ありがとな」と呟いた。
そして、もう二度と友也を巻き込んではいけないと心に言い聞かせ
た。
これ以上、大切な人達を傷つけるわけにはいかない。