パンドラの鍵
真実を知るのが怖くて、研究室に近づくことも出来なかった。
沙織は哀しんだだろうか?
俺のいない部屋を見て。
自分が避けられているのを知って。
俺はなんて酷いことをしたのだろうか……。
逢いたいと思った。
逢って、本当のことを沙織の口から聞こう。
俺はそうしなければいけない。
これは、きっと自分に与えられた使命なんだ。
あの男も言っていた、これは使命だと………。
逃げるな、立ち向かえ、今まで屁理屈ばかり考え、正面切って道を
切り開いていかなかった自分の弱さ。そこにつけ込まれたのだ。
悪魔は俺を見ていた。
貴之は写真を元の場所に戻すと、今度は財布を取りだし、その中か
ら小さく折り畳まれた紙を手に取った。
その紙には昨夜、教員名簿から抜き出してきた教授の住所があった。
学生達がぞろぞろと校門から姿を現し始めた。
外に昼食を取りに行っていたのだろう。
彼らは別段急ぐわけでもなく、それぞれの建物に向かって歩を進め
ているようだった。
貴之は独り、その流れに逆らい歩き始めた。