パンドラの鍵
「さぁな」
「あんなこと、普通ありえねえよな」
「ああ」
しばらく、友也はなにやら考えている様子だった。
空中を鳶が気持ちよさそうに旋回している。
「工藤…」
貴之は、「あ…」と友也に顔を向けた。
「おまえ、本当は全て知ってたんじゃないのか?」
「は、何言ってんだよ。知ってるわけないだろ」
「いや、別に具体的なことじゃないんだ。ただ漠然と何か起こるか
もしれないと、そんなふうに思っていたんだろ?」
「………考えすぎだって」
「そうかぁ。俺、やっぱりお前のこと心配だよ。さっきのことだっ
て尋常じゃねぇし……。何か、すごく危険な世界に足を踏み入れよ
うとしているんじゃないのか?」
「違う、おまえが心配しているようなことはないって…」
「違うって、どこがだよ。じゃあ、さっきの化け物はなんだったん
だよ。助かったからいいものを、もしかしたら死んでたかもしれね
ぇんだぞ」
黙り込む貴之。
そんな二人の張りつめた空気を切り裂くかのように、予鈴のチャイ
ムがキャンパス内に響きわたった。