パンドラの鍵
友也は心底ほっと心を撫で下ろした。
「あいつは?」
震える声で尋ねる。友也は頭を左右に振った。
「立てるか?」
「あぁ、きっと」
「ほら……」
友也が肩を貸してくれる。
貴之は礼を言うと、友也の肩に掴まりながら立ちあがった。
立ちあがった瞬間に、何かがパラパラと床に落ちた。
それを見て立ちすくむ二人。
しかし、水分を含んで湿った髪の毛は、先程のような不可解な動き
をもはや見せなかった。
ただ、ぞろりと床の上に広がっているだけ。
友也はそれを見て吐き気を覚えたのか、口元を押さえた。
「出よう、早く」
もう一瞬足りともこの部屋に居たくなかったのだろう。
友也は貴之の背中を押すと、足早に廊下に飛び出していった。
貴之も慌てて後を追う。後ろは振り返らなかった。
二人ともただただあのおぞましい空間から離れることだけを考えて
いた。
誰もいなくなった部屋の中で、髪の毛がぐるぐると水面を漂い続け
ていた。ぐるぐると、静かな水面の上を……。