パンドラの鍵
友也の頭の中で様々な想像が駆け巡る。
それにしても静かだ。恐ろしく静かだ。
工藤、工藤は?
考えるのは怖かった。嫌だっ! それだけは!
友也は大きく膨らみ続ける自分の想像を打ち砕くため、恐る恐る目
を開けた。目の前には……。
「工藤!」
目を開けるといるはずの化け物は忽然と姿を消し、その代わりに水
浸しになった床の上にぐったりと倒れている貴之の姿が視界に飛び
込んできた。
死んでいるのか?
友也は不安に駆られ、貴之の傍に駆け寄った。そして、
「工藤!おいっ! しっかりしろ!」
と、貴之の身体を抱きかかえながら、一心不乱に揺さぶり続けた。
「成瀬……」
貴之の口が微かに動いて自分の名前を呟いたのを、友也は聞き逃さ
なかった。
「おいっ、大丈夫か?」
貴之の目が薄らと開く。
「俺……、俺、助かったのか…」
そう言いながら、確かめるように自分の身体をさわった。所々、赤
いあざや擦り傷が見当たるが、大した事はなさそうだった。