パンドラの鍵
そいつは突然、身体の一部を槍のように尖らせると、友也に襲いか
かって来た。
「来るなぁ―――」
背後の窓ガラスが派手に砕ける。
その衝撃で友也は戸棚に身体を痛いほどぶつけた。
戸棚の上の観葉植物がぐらりと動く。
友也は無駄だと知りつつ、それを鷲づかみにすると化け物に向かっ
て投げつけた。
鉢植えが音を立てて砕け、中の土と植物が無様にも飛び散った。
化け物が一瞬ひるむ。
友也は戸棚の上のものを手当たりしだいに投げ続けた。
「来るなぁ――、来るなぁ―――」
と、ひたすら同じ言葉をくり返し叫びながら………。
友也の指先が、最後の一つに触れた。
冷たい鉄製のジョウロ。水が入っている。友也はジョウロを掴むと、
最後の望みを掛けてそれを投げつけた。
水飛沫が上がる。
友也は覚悟を決めて目を閉じた。
一秒、二秒、三秒………。
十数える。何も起こらない。
いや、相手は友也が目を開けて死相を浮かべるのを、黙って目の前
で待っているのかもしれない。