パンドラの鍵
友也の額から汗がしたたり落ちる。友也はカッターの刃をさらに引
き伸ばすと、その感触を確かめるように握りなおした。
そして、あらん限りの力を振り絞って横に振り払った。
その瞬間、鼓膜を貫くような悲鳴が辺りに響きわたった。
狂ったように暴れ出す髪の毛。
残骸と化したそれは、しばし床の上でのた打ち回っていた。
しかし、その状態は長く続かなかった。
髪の毛は再びアメーバーのように絡みつくと、貴之の首を絞め始め
た。
小さなカッターなんかでは、太刀打ちできる相手ではない!
その事実を知った時、友也の顔から一気に血の気が失せた。
そして、そいつはついに友也にも触手を伸ばし始めた。
「誰か、誰か助けてくれっ! 誰かぁ――」
無意味な悲鳴が、室内にこだまする。
狭い教官室……、友也は徐々に逃げ場を失い始めた。
窓際に追い詰められる。
ここは5階、窓の外は奈落の底。
もう逃げられない。
そして目の前にそびえ立つ緑色をした化け物。
友也は絶望的な思いでそいつを見上げた。
捕らわれた貴之の上半身は今や完璧に覆い尽くされ、かろうじて苦
痛に歪んだ顔だけが髪の毛の間から見え隠れしている。