パンドラの鍵
「疲れたんだよ。いい子でいるのが疲れただけなんだよ!ほっとい
てくれよ」
言葉に出すと少し楽になった。
そして、一度口に出したら最後、感情は言葉という媒体を使って湯
水のように溢れ始めた。
「全部演技だよ。意見を述べたって、聞こうとさえしなかったじゃ
ないか。もう限界なんだよ、自由にしてくれよ。薬でもやらねぇと、
こんな家になんか居られるかよ。うんざりだ、幸せな家族のふりを
するのも、プライドばっかり高いおまえらも、変にお金なんか持つ
からこんなことになるんだ。一般庶民なら庶民らしくしろっていう
んだよっ」
「貴之ちゃん!」
親父の目の色が変わる。その顔にはもはや息子に対する思いなどな
い、完璧に頭に血がのぼり、見境が付かなくなっている。
親父の拳が手加減なしで貴之の頬を殴りつけてきた。
その反動で貴之はフローリングの上に頭を叩きつけた。
にぶい音が響く。
軽い脳震盪を引き起こし、一瞬意識が遠のきそうになる。
親父の声が聞こえる。
「もう一度言ってみろ!」
「あなた……」