パンドラの鍵
ずしりと本の重さが手のひらに伝わる。
「結構重いな」
「あぁ…、まぁ、そんなことはいいから開けてみればわかるって。
心臓止まりそうになるから、さ」
そう言うと、友也は意味深に笑おうとした。
でも恐怖心が邪魔をしているのか、うまく笑うことが出来なかった。
「冗談だったら怒るぞ」
貴之は表紙に手を添えると、友也のせいで急に速まりだした鼓動を
落ち着かせようと、本から目を逸らし天井を見上げた。
剥き出しのコンクリート。
年月を掛けて作られた無数のシミ。
貴之の目には一瞬、それらが壁の中からじっとこちらの様子を監視
している目玉に見えた。
コンクリートに埋め込まれた目……。
その目は貴之を嘲笑っているかのようだった。
貴之は慌てて目を逸らすと、本に視線をもどした。
心拍数は落ち着くどころか、ますますその速度を増していた。
そして意を決したように、分厚い表紙をめくった……。
その瞬間、貴之の目は―――。
視界に飛び込んできたのは、膨大な量の髪の毛。
それは、表紙の裏にごっそりとこびりついていた。