パンドラの鍵
再び写真を覗き込む。いるはずの沙織の姿が、写っていなかった。
沙織が、沙織がいない……。
1981年7月25日。
写真の日付を確認して、貴之はますます表情を強張らせた。
沙織は俺と同い年のはず。だったらこの写真の中に3歳ぐらいの沙
織が、写っていなければおかしい。
写真はその一枚だけだった。
貴之はそれをそっとポケットの中に忍ばせた。
その瞬間、いきなり背後でバサッと本が床に落ちる音が響き、貴之
は思わず息を止めた。心臓が激しく波打つ。
「おいっ、やめろよ! 驚く……」
友也の悲鳴にも似た叫び声が、貴之の声を掻き消す。
「だって、こんな…」
友也はわなわなと肩を震わせていた。
そして、足下に転がっている本を指さした。
「本………」
「あぁ…、気味が、気味が悪い……」
「どこが? 別に普通の本じゃないか」
貴之は本を見下ろしながら言った。なんの変哲もない本。それは大
人しく表紙を閉じてそこにあった。
「違うんだ。その中が――。見てみればわかるさ。突然ごそっと現
れて、それから…。とにかく不気味なんだ」
「はぁ?」
貴之は訝しげに首を傾げると、本を拾い上げた。