パンドラの鍵
「成瀬!」
「どうした?」
本棚の中を覗き込んでいた友也が顔を上げる。
「ちょっと一つ訊きたいんだけど、いいか?」
「あぁ」
「有馬教授のことだ」
「わかってる」
「彼が講義を休み始めた日を知りたいんだ。覚えているか?」
「そうだなぁ」
友也は適当に一冊の本を手に取ると、読むわけでもなくただパラパ
ラと、意味もなくページをめくった。
「授業のある日が火曜日だろ。今日が十八だからほぼ二週間ぐらい
前になるかな」
「二週間か…」
長いな。貴之はそっと舌打ちすると、机の中を調べ始めた。
使い古しのプリント類、それから万年筆などの文房具。
大したものは見つからない…。
それでも貴之は引き出しを開け続けた。手がかりを求めて――。
四番目の引き出し、貴之はプリントの合間に一枚の写真を見つけた。――セピア色をしたかなり年代ものの写真。これが有馬教授なんだろう。眼鏡をかけたインテリっぽい風貌を兼ねた人。そして隣で笑っているのが奥さんか――。教授は六、七歳ほどの男の子の肩を抱いていた。
三人家族か……。
そして写真をもとに戻そうとして、貴之は凍りついた。