パンドラの鍵
鍵は掛かっていなかった――。
「おいっ!」
友也が辺りを見渡しながら叫んだ。
貴之は友也に顔を向けると、ゆっくりと頷いた。
「俺は中に入る」
「やばいって、もし誰かに見つかったりしたら……」
「大丈夫だよ。こんな所にまで人はめったに来ないさ」
「そうかぁ?」
貴之は部屋の中に忍び込むと、顔だけ廊下に出していたずらっ子の
ように訊いた。
「どうする? 来るか?」
「どうするって……」
辺りを見渡しながら、おどおどした目を貴之に向けた。
そういえば、小さい頃から友也は用心深い性格だった。
普段周囲に見せている様子からは、想像もつかないほど小心者で…。
反対に危ないことにすぐ興味を示すのは、いつもは真面目で大人し
い貴之だった。
おかしなもんだな。貴之は心の中で笑う。
性格は昔からちっとも変わっていないじゃないか。
部屋の中は、何日間も放っておかれていたのだろう。