パンドラの鍵
友也は同性から見ても、異性から見ても魅力的な男だった。もし、
沙織が友也に惹かれたら、俺のもとを去って行ったら……。
そう考えると言い出そうにも言い出せなかった。
「まぁ、いいさ。言いたくないんなら、俺は何もきかねぇよ」
そう口にした友也の表情が妙に寂しげで、貴之は思わず胸を詰まら
せた。
「ごめんな。今はまだ言えないんだ……」
「あぁ」
あえてなにも訊こうとはしない友也の態度に、貴之は気の利いたセ
リフもいえず、ただ無言で答えるので精一杯だった。
二人はしばらく何を見るわけでもなく、ぼんやりと佇んでいた。
彼らを取り巻く空間だけ、時の流れが静止しているかのようだ。
「行くか…」
「えっ」
友也はウーンと呻りながら背筋を伸ばすと、おもむろに立ち上がり、
貴之の方を振り返った。
「有馬の教官室だよ。知りたいんだろ」
「あ、あぁ」
戸惑う貴之をよそに、
「教えてやるさ、それぐらい」
友也の顔は無表情だったが、言葉の節々に優しさが滲み出ていた。
貴之は思わず心の中で手を合わせた。