パンドラの鍵
友也はあまり乗り気じゃない様子でそれだけ言うと、貴之に気づか
れないようにそっとため息をついた。
「やっぱり今日のお前変だよ。なんか妙に探偵気取りだしさ。やば
いことにでも……」
「そんなんじゃねぇよ。気にしすぎだって」
二人の間を一陣の風が通り過ぎていく――。
束の間の沈黙後、友也は諦めたように呟いた。
「俺には言えないことなんだな」
貴之は正直、心苦しかった。
本来なら全てを話し合ってこそ、親友であるはずなのに……。
貴之は沙織のことさえ、友也に話してはいなかった。
なぜ話さなかったのか?
話す機会はいくらでもあった。
でも俺はあえて話そうとはしなった。
なぜなら俺は友也にコンプレックスを抱いていたからだ。
その事実を認めたくはなかったが……。
俺は友也に沙織を紹介したくなかった。
友也の性格からして、決して友達の彼女に手を出すはずがないのは
分ってはいたが、貴之は怖かったのだ。