パンドラの鍵
「確か工藤、地球物理を専攻してるって前言ってたよな」
「あぁ、そうだけど。それが?」
友也は上着から煙草を取り出すと口にくわえた。
ライターで火を点ける。
「吸うか?」
「いや、いい」
貴之は断ると、本題に入った。
「有馬宗一郎は知っているよな」
「有馬か。俺あいつの授業取っているから、そりゃ知ってるけどさ」
「どんな人だ? 俺は名前ぐらいしか知らないんだけど…」
「どんなやつかって?」
友也は目を見開いた。
「どうしておまえ、有馬なんかに興味あるわけ? 単に普通のおや
じだよ。眼鏡かけた中年のおやじ」
「そうか……、普通の」
貴之はそう呟くと、目の前を漂う煙草の煙に目を泳がせた。
貴之は質問を続けた。
「なにか怪しいところとか、変だと思うようなところもないのか?」
「怪しいところねぇ。どうだろうなぁ、講義は退屈なだけだし、別
段やばそうなタイプでもないと思うけど俺は」
そこまで言って、友也は黙り込んだ。