パンドラの鍵
「知っているね、沙織のことは?」
「知っているも何も……」
「そう、君達は恋人同士。だったと言うべきかな」
「どうして、そんなことまで? 一体沙織がどう関係しているって
言うんですか?」
「どうもこうも……、大いに関係している。君は沙織についてどれ
ほど知っている?」
沙織について?
貴之は考える。沙織と過ごした日々を……。
でも、思い浮かぶのは沙織の笑顔と、ソファーの上で波打つ白く滑
らかな肌だけ。
連絡先も家も沙織の生立ちも、俺は何一つ聞いていなかった。
ただ知っているのは、彼女が有馬教授の娘だという事実のみ。
「俺は………」
「何も知らないだろう」
貴之は頷くしか出来ない。
屈辱的だった。
沙織は、仮にも一度は本気で愛した女だった。
その彼女のことを俺はよく知らないなんて……。
「彼女の出生の秘密を探れ! これが私からの使命だ」
「彼女の生立ちを?」
「そうだ! その事実を知ったとき、全てが明らかになる。君自身
のことも、両親のことも。私が言えるのはこれだけだ。全ての鍵は、
沙織という女が握っている」