パンドラの鍵
「さて……」
男は例の小瓶を手にすると、フッと息を吹きかけた。小瓶が神隠し
にでもあったかのように音もなく消える。
「おいっ!」
貴之の顔から血の気が失せた。
「何を、何をした?」
そう叫ぶ声が上ずる。
男はさもおかしそうに笑うと、
「殺してなどいないさ。ちょいと邪魔だったので消えてもらっただ
けだ」
「消えてもらっただけって……」
「君がやったことと同じじゃないか」
貴之は言葉に詰まった。何も言い返せなかった。
束の間の沈黙………。耐えがたい時間が貴之を襲う。
沈黙を破ったのは、男のほうだった。
「沙織……」
男が口にしたのは、予期していない名前だった。
なぜ?
貴之の頭にクエスチョンマークが点滅する。