パンドラの鍵
「沙織が……」
「やってくれるね。君ならできる」
「………」
「君の両親は、彼女の情報と引き換えに返品する。これは約束だ、
いいね。ただし変な気は起こすな。もう君は我々の仲間だ。ここで
話したことも、私のことも一切誰にも話すな。私への裏切りは死を
意味する」
「死を……」
「覚えておけ。君だって死にたくないだろう」
腹の底からこみ上げているのだろう。
男の笑い声は、貴之を震え上がらせるのに十分な音量と気迫を含ん
でいた。
もう、この世界から抜け出すことは出来ないらしい。
近くで落雷したのだろう。
足下が揺れ、耳を劈くほどの轟きが地下にまで伝わって来た。
わからない。
どこをどうやって走ってきたのか。
貴之はいつの間にか外に出ていた。
降り注ぐ雨が冷たい。
夢だったのだろうか?
いや、夢ではない。それだけは確かだ。
貴之はしばし雨に打たれ続けた。