パンドラの鍵
貴之の悲痛な頼みは、
「そう簡単には出来ない」
と言う男の一言で、無残にも打ち砕かれた。
「そんな……」
「これは、君が望んだことだ。契約書もある」
目の前で、机の引き出しの中で眠っているはずの契約書がゆらゆら
と揺れていた。
「………」
「君は知らないことが多すぎる。世の中は君の思いどおりにはなら
ない」
男は続けた。
「自由かね? 君は今、自由だと感じているか?」
「それは……」
確かに、貴之は自由になりたかった。
両親の傲慢ともいえる理想像を、子供に押し付ける環境から逃げ出
したかった。
しかしそうなった今、俺は自由になったのだろうか?
これは自由と言えるのか?
何かが違う。こんなはずじゃ……。
「まぁいい、いずれ君にも自由の本当の意味が分る時が来るだろう」
そう言うと、男はそろりと闇の中を動いた。