パンドラの鍵
他人の口から零れる残虐な言葉の数々は、おまえの心は汚れている、
恐ろしい、人間じゃないと間接的に責められているようで、気が狂
いそうだった。
「お願いだ、やめてくれ!」
嘲笑ともとれる笑い声が、この広い空間に響き渡る。
「見ろ!」
顔を上げた貴之の目の前に差し出された小さな小瓶……。
貴之は、暗い闇の中でぼんやりと光るそれに目を向けた。
「親父……、母さん!」
小瓶の中で必死になって壁を叩いている親父と、ぐったりと床に伏
せている母の姿が飛び込んでくる。
こんな、こんな虫けらのような姿になって……。
出してくれ!そう叫んでいる親父の姿が、貴之は哀れでならなかっ
た。
親父の小さな目が、貴之の姿を捕えたのだろう。
その瞳に憎しみとも悲しみとも分らない、なんとも言いようのない
感情が映し出された。
貴之は直視することが出来なかった。
いや、本当は真実から目を背けたかっただけかもしれない。
自分が悪魔に魂を売るような、冷酷な人間だったという事実から。
「元に、元に戻してくれっ」