パンドラの鍵
「あの、ここは?」
ドームのような円形をした、無意味に広い空間。
天井は果てしなく高く、開放感に溢れていた。
「あの……」
そう言ってから、貴之は女の姿が見えないことに気がついた。
恐る恐る後ろを振り向く。
貴之の顔から一気に表情がなくなった。
あるはずの階段が、跡形もなく消失していた。
あるのは、目の前と同じ景色だけ……。
今更ながら貴之は、まんまとあの男の話にのってここまで来てしま
った事を後悔していた。
やっぱり来るべきではなかった。この異様な雰囲気。だけど……。
「来たのか?」
声は突然聞こえた。
体の奥底から響いてくるどす黒い声。
頭の天辺から足の爪先まで、一気に鳥肌が立つ。
声はまた聞こえた。
「なにを怯えている。怖がることなど何もない!」