パンドラの鍵
ここは一体――。
店内には一応カウンターらしきものがあるが、酒もなければバーテ
ンダーもいない。
白く埃が積もっているところからして、明らかに使われている様子
はなかった。
「どこへ?」
そんなに広くない店内。
いくら見渡しても人っ子一人いない。ガランとした空間にいるのは、
目の前の怪しげな女と貴之だけ……。
女は前方を見つめたまま答える。
「下です」
「下…?」
「はい」
女は突き当たりの装飾棚の前に立つと、唐突に貴之の方に振り返っ
た。
女の目が一瞬不気味に光る。
「この戸棚の奥に入り口があります」
「奥に……」
「よろしいですね。今からあなたをあの方に会わせます。もう元の
世界には戻れませんよ。覚悟は出来ていますね?」
「え……」
「引き返しますか?」