パンドラの鍵
唯一、貴之の味方だった雅美。
「お兄ちゃん」と屈託のない笑顔を浮かべて、背中を追いかけてき
た雅美。
あいつにまで嫌われたら俺は……。
木製のかなり年代ものの扉、貴之は大きく息を吐くと、黒光りする
銅の取っ手に手を伸ばした。
ドアノブを右に回す。
すると扉は耳障りな蝶番の音を軋ませながら、重々しく開き始めた。
中は薄暗く、地下へと続く階段がぼんやりと浮かんで見える。
貴之は恐る恐る中へ入るとドアを閉めた。
壁には大小様々な蝋燭が埋め込まれ、か細い光を投げかけていた。
貴之はその宗教じみた内装に一瞬妙な寒気を覚えたが、やがて決意
するとそろそろと蝋燭の明かりを頼りに階段を下り始めた。
階段は想像以上に長く、螺旋を描いていた。
そして行き着いた場所は……、またもや扉。
今度は容易に開きはしなかったが。
ドンドンドンドン。
「誰か、誰かいませんか?」
返事はない。だが、微かに人の気配を貴之は感じた。