パンドラの鍵
男はそう言うと、前回と同様跡形もなく消え去った。
ラビリンス。
迷宮。
貴之は出口の分らない巨大迷路の中に、飛び込んでしまっていたの
かもしれない。
とりあえず訪ねてみるしかなさそうだ。
貴之は渡された地図を覗きこんだ。
雨、雨か……。
額に冷たい水の感触を感じて、貴之は都会の上空を覆う低く立ちこ
めた雨雲を見上げた。
その瞬間ビルの窓ガラスが青白く輝き、地を揺るがすほどの雷鳴が
辺りを轟かせた。
そして、本格的に雨が降り始めた。
大粒の滴が、アスファルト上に黒い斑紋を描いてゆく――。
貴之は鞄で頭を覆うと、一目散に走り出した。
雨は容赦なく貴之の体を打つ。
髪からは水が滴り、上着は水分を含んで重くのしかかる。
貴之は点滅し始めた横断歩道を慌てて横切ると、細い裏路地に迷い
込んだ…。
雨は弱まるどころか、その勢いは留まることを知らなかった。
降り続く雨の中、貴之は指定された店を探し続けた。