パンドラの鍵
自分にとっては消えてほしいぐらい憎い両親でも、雅美にとっては
かけがえのない存在。
幼い雅美に親というものがどれほど大切だったか、今の憔悴しきっ
た雅美の姿を見ていれば痛いほど分る。
両親を不思議な力で消しても、なんの解決にもならない。
貴之は、床に落ちている契約書を拾うと、力いっぱい引き裂いた。
「お兄ちゃん?」
雅美が目を丸くしている。
「ごめん、俺どうかしてた」
「………」
「そうだよな。あんなやつらでも俺達を育ててきてくれたんだもん
な。大体、おまえの面倒みるやついなくなったらやっぱり困るし」
雅美の表情が泣き笑いに変わる。
「もどってくる?」
「あぁ。こいつもこんな状態になっちまったら意味ないよ。すぐに
いつもの日常に戻るさ」
しかし、両親は姿を現さなかった。
次の日も、そのまた次の日も…。
雅美は学校にも行かず、一日中部屋に篭りっぱなしだった。
頬はこけ、目は落ち窪み、誰の目から見てもまともな状態ではなか
った。
そして、一週間が過ぎた――。