パンドラの鍵
百点のテストを得意げに見せた幼い頃の貴之……。
すごいわね、がんばったわね。と誉めてもらいたくて、健気にがん
ばっていた日々。
でも……と、貴之の表情が曇る。
母さんの欲求は簡単には満足しなかった。
もっと上を、もっと、もっと上を……。
果てしなく続く願望。
他人と比較される毎日。
がんばりなさい。もっと勉強しなさい!お隣の健二君は、将来東大
に行って政治家になるんですって、あなたよりも2歳年下なのにも
うそんなこと言ってるなんて偉いわよね。
それから同じクラスの奈美子ちゃんは………。
やめて、やめてっ! それ以上言わないで!
何度、心の中で悲鳴を上げたことか……。
がんばりなさい!その一言がどれだけ重く感じられたか。
親の期待、それに答えるだけの能力が限界を超えてしまう時が来た
ら――。
中学か、高校か…その時を貴之は恐れた。
勉強は好きじゃなかった。ただ、家という狭い世界で安息の地を手
に入れるためには、勉強のできるいい子でいなければいけなかった。
自分たちの子供が出来の悪いわけがない。