パンドラの鍵
「ちげーよ。あいつらが心配していたのは自分達のことさ。周りの
やつらから白い目で見られるのが嫌だった。それだけに決まってる
だろ」
「ちがうよ、そうじゃないよ。だって……」
「だってって、なんだよ? 聞いたのかよ。あいつらが俺のこと心
配してる言葉吐いてるとこ、おまえ直接聞いたっていうのか?」
「……お兄ちゃん、怖いよ。どうして? 前はもっと優しかったの
に」
雅美の大きな瞳から、みるみるうちに涙が溢れてくる。
そんな妹の姿を見ているうちに、少々大人気ない気分になり、
「ごめん、別に雅美のことが嫌いなわけじゃないんだ。ただ、おま
えはまだ小さくて、この家のことがあんまり分っていなくて」
「家のことって?」
「つまり、世間体を非常に気にしてる所とか、まぁいろいろとな」
「………」
「おまえは、―――小さい頃の俺にそっくりなんだよ。母さん達に
誉めてもらうために一生懸命で、一生懸命で………」
そう言いながら、貴之はいつのまにか泣いていた。
幼い頃のぼんやりとした記憶が、走馬灯のように流れ出した。
お母さん、見て見て!ぼく、また一番だったんだよ。先生もすごい
ねってほめてくれたの! ぼく、しょうらいはお父さんみたいにな
りたいんだ!