パンドラの鍵
「お兄ちゃん、なにしたの? お母さんたちになにしたの?」
矢継ぎ早に飛んでくる非難の言葉は、貴之を悩ませ苦しませた。
「別に、俺は何も……」
「じゃあ、これは? お兄ちゃんの部屋にあったこの紙はなに?」
「紙って?」
雅美は階段を駆け下りてくると、貴之に例の契約書を突きつけた。
「雅美赤ちゃんじゃないから、内容ぐらいわかるんだから」
貴之の前で、契約書がゆらゆらと揺れている。
「お兄ちゃん、お母さんたちを売ったの?」
「売ったって……。そんな、俺だって本当に起こるなんて思ってい
なくて、ただそうなればいいって……」
「そうなればいいって、そう思ったの? ひどい、ひどいよ――」
非難する雅美の声はどんどん大きくなる。
貴之は耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
「酷い……、俺がか? 冗談だろっ。あいつらがしてきた事を考え
れば、これぐらいのことされて当然に決まってる」
「ちがう。わかってないのはお兄ちゃんだよ。お母さんもお父さん
も、お兄ちゃんが薬に手を出したって知ったとき、すっごく心配し
てたんだよ。自分達が悪かったんじゃないかって」