パンドラの鍵
貴之は小躍りしたい気分だった。
そんな貴之を、雅美は階段の踊り場からじっと見つめていた。
怯えた表情を浮かべて……。
自分に向けられる鋭い視線を背後に感じて、貴之は後ろを振り返っ
た。
「雅美……」
「………」
雅美は爪を噛みながら、黙って貴之を見つめている……。
「親父と母さんは、その、きっと俺に愛想尽かして旅にでも、そう
そう旅行に出かけたんだよ……。まぁ、おまえに何も言っていかな
かったのは……」
「うそ……」
「別に嘘なんか」
「じゃあ、お兄ちゃん。どうしてわらってたの?」
「笑、笑ってなんか……」
「わらってたよ。お母さんたちのいない部屋見てわらってた。雅美
見ちゃったもん」
「それは……」
貴之は返答に困って目を逸らした。