パンドラの鍵
「つきましては今後のご案内と、あなた様が消えてほしいと思って
いらっしゃるもの、いや人ですかね……」
そう言うと、男はひとしきり奇妙な笑い声を上げた。
貴之の表情が複雑に歪む。
「まぁ、そいつをもらいに来たわけですよ」
「………」
男が顔を近づけてくる。貴之は思わず目をそらした。
「それにしてもいいお部屋に住んでいますねぇ。何でもそろってい
らっしゃる。こんなに恵まれているあなたがなぜ…」
男は、部屋の中をおもしろそうに観察しながら、貴之に問いかけて
くる。
「この絵、高いんじゃありません?」
「偽物だよ。見せかけだけさ。どれもこれも」
「そうですか…。私の目には本物に見えますがねぇ」
「どっちでもいいだろっ。それより、あんまり人の部屋をじろじろ
見んなよ。気分悪い!」
「おやおや私としたことが、大変失礼なことを……。大切なクライ
アントのお気持ちを害するようなことをしてしまった」
そう言うと、男はわざとらしく頭を下げた。