パンドラの鍵
沙織と積み上げてきた立体パズルが、音を立てて崩壊していった瞬
間。
世界が灰色に染まった瞬間……。
親父の電話の相手は、沙織の父、有馬宗一郎だった。
「よかった。うちの貴之もどうやらお宅の娘さんを気に入ったみた
いで…、ええ、これでうまく。……まぁ、近々お会いしましょう。
私の方も時間が出来次第ご連絡致しますので……、はい、じゃあま
た日を改めて……」
階段の踊り場で、たまたま耳にした電話――。
大手の科学研究所を経営している親父と、大学で地球物理の教授を
している沙織の父親と、一体どういう繋がりがあるのかは分からな
い。
ただ、沙織との出会いが全て工作されていたことだけは事実だった。
例え様もないほど事実。
本当の愛などなかったのかもしれない。沙織の笑顔の裏には――。
貴之は落ちていった。酒にギャンブルにドラッグに溺れていった。
落ちていくことはすばらしかった。すばらしかった……。
どれくらい時間がたったのだろう?
貴之は薄暗くなった部屋を見まわしながら、ふらふらと立ち上がり、
そこにいるはずのない人物を見つけて自分の目を疑った。