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パンドラの鍵

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ブラウン管の中では、涼しげなノースリーブのワンピースを着こな
した女性が、今日の天気について語っていた。

―――今日の関東地方の気温は例年より少し高めで、都内ではまだ
まだ蒸し暑い日々が続きそうです。しかし、夜には平年並みの気温
になり、所々場所によっては冷え込むでしょう。お出かけの際には
……。

貴之はしばらくぼーっとその天気予報を眺めていたが、コマーシャ
ルに変わるとまた意味もなくチャンネルを変え始めた。

画面が次々と変わっていく。

貴之の指の動き一つで……。

そんな貴之の手がふと止まった。

一瞬、見たことのある景色が横切ったからだ。

貴之はそのチャンネルに合わせた。

そして、次の瞬間足元にコーヒーを零していた。

―――今朝、遺体で発見されたのは金森早苗さん五十二歳で、新聞
の勧誘に伺った会社員水野修二さんによって発見されました。金森
さんは五反田の一軒家に独りで住んでおり、近所のマーケットで昼
間パートに出ているほかは人付き合いもなかった模様です。室内に
は争った形跡も見られることから、彼女の身になんらかのトラブル
が発生したとして捜査を続けています。近所の話では、昨夜金森さ
んのお宅に若い二十歳前後の男性が出て行くのを見たという証言も
あり、警察はその男性を重要参考人として捜査する方針で進めてい
ます。男性は身長百七十センチ程で、痩せ型。ジーンズにティーシ
ャツといったラフな姿をしていたとのことです。

そこまで聞いて貴之は唖然とした。

自分が容疑者扱いされていることもそうだが、なにより昨日の今日
で彼女が殺されたという事実が、貴之を薄ら寒い気持ちにさせた。

あのおばさんが死んだ―――。

孤独な檻の中で、ひたすら息子の帰りを待ちつづけていた彼女の姿
が、貴之の目の前に鮮やかに蘇える。

憂いを湛えた瞳とともに……。

何故だ…。貴之はテレビの前で立ち続けた。
作品名:パンドラの鍵 作家名:まゆ