パンドラの鍵
貴之の指は自然とその痣をなぞっていた。
指先から伝わる感触からして、単なる痣とは考えられなかった。
これは明らかに焼印……。
貴之の脳裏に実験用のマウスが浮かんだ。
身体に番号を打たれて、檻の中で観察されているマウスが……。
身震いがした。
貴之は慌てて浴室から出ると、脱ぎ捨ててあった服に再び袖を通し
た。
汚いとか不潔だとかは関係なかった。
ただただ寒くて、温かい衣服に包まれたかった。
貴之は沸かしておいたお湯でインスタントのコーヒーを作ると、ブ
ラックのまま一気に飲み干した。
喉がやけるように熱くなる。
そして再びなみなみとお代わりを注ぐと、マグカップを片手に居間
へ行きソファーに身を静めた。
何も考えたくなかった。この痣が意味することなど――。
でも……と、貴之は両手でコーヒーの入ったマグカップを包み込み
ながら思った。
確かに昨日まではこんな痣はなかったと……。
見えにくい場所とはいえ、それだけは疑いもない。
貴之は二、三度頭を振ると、テレビのスイッチを入れた。
ちょうどお昼のニュースの時間なのだろう。
どのチャンネルに変えてもニュースが流れている。