パンドラの鍵
頭の上から降り注ぐ冷たいシャワーは、貴之のまだ半分眠っている
身体にかなり堪えた。
貴之は寝汗を軽く流し終えるとシェービングクリームを泡立て、生
えてきた不情ひげを無心に剃り始めた。
鏡で剃り残しがないかどうか確かめながら……。
右頬を半分剃り終わったときだろうか、貴之はふと違和感を感じて
手を休めた。
顔を鏡に近づける。
何だろう?
じっくり見ても、鏡の中にはやつれてほんの少しシャープになった
貴之の顔があるだけ。
特別変わった所は見当たらない。
貴之はほんの少し首を傾げると、残りの半分を剃り始めた。
しかし依然として、先程感じた違和感は続いていた。
おかしい……。
貴之はすべすべになった顎を掌でさすりながら、まじまじと自分の
顔を眺めた。
何だ…。男にしては色白な貴之。
奥二重の眠そうな瞳が、きょときょとと忙しげに動いている。
その瞳が、突然ある一箇所に止まった。
顔というよりも、顎の裏とでも言ったほうがいいか。
貴之はそこに蚊にでも刺されたようなピンク色の痣を見つけた。
遠くから見れば単なる吹き出物のようにも見える。
でも、貴之はしばしその場所から目を離すことが出来なかった。
なぜならそれは、はっきりと数字の3の形に貴之の目には映ってい
たからだった。
数字の3……。