パンドラの鍵
貴之の耳元に、奇妙な音が飛び込んできた。
そして、獣の咆哮のようなおぞましい唸り声を残して、電話は唐突
に切れた。
………。
貴之は、しばし受話器を手にしたまま動くことが出来なかった。
捜さないで!
貴之のように完璧じゃない!
そして聞こえた獣の咆哮!
沙織、君はいったい何者なんだ?
貴之の脳裏に早苗から聞いた有馬家の悲劇が蘇える。
人間じゃない、そう言い残して死んだ教授の奥さん。
可能性を考えると、沙織が……。
そこまで考えて貴之は自分を呪った。
どうかしている。
記憶の中の沙織は、華奢で妖精のような女の子で……。
そんな彼女がまさか、ありえない。
貴之は変な考えを頭から追い出すように、ソファーに横になると目
を閉じた。
しかし身体は疲れているはずなのに、睡魔はなかなか襲っては来な
かった。
結局、貴之がうつらうつらしてきたのは、空が白み始めてからだっ
た。