パンドラの鍵
「今、今どこにいるんだ。元気なのか……?」
貴之の声がうわずる。こうして久々に沙織の声を聞くと、いくら親
に仕組まれた仲だといっても自分は沙織のことが好きなんだと思っ
た。
捜していた沙織が、今この受話器の向こうにいる。
そしてこの事実は、さらに貴之の気を逸らせた。
「貴之、私……」
「何?」
しかし、この後に続いた言葉は、
「お願い! 私を捜さないで!」
「えっ! 捜すなって」
「お願い!」
「お願いって言われても、どうして?」
「理由は言えない。ただ知らないほうがいいこともあるのよ。だから
もう、私の周囲を嗅ぎまわるのはやめて」
「どうしてそのことを……」
「………」
「沙織、おまえはいったい……」
「好きよ、貴之。好き」
「沙織……」
「でも、そういう純粋な気持ちが私の中から少しずつ消えていくの。
私は貴之のように完璧じゃなかったのよ。私は……」