パンドラの鍵
貴之はしぶしぶ電話に近づくと、意を決して受話器を取り上げた。
心臓が高鳴る。
不安は的中していた……。
「もしもし……、工藤ですが」
「………」
受話器の向こうで、相手がじっと息を潜めているのが分る。
「もしもし……」
「………」
やはり聞こえてくるのは、相手の息遣いだけ……。
ここ最近、貴之の帰りを待っていたかのように掛かってくる無言電
話。
相手は貴之の声を聞くだけ聞くと、いつも唐突に電話を切った。
でも今夜は……。
沈黙がやけに長い。
苛立ちと気持ち悪さが募って、
「誰なんですか、もういい加減に……」
と言いかけた瞬間、耳元に懐かしい声が微かに聞こえてきて、貴之
は戸惑った。
この声は……。
「もしかして、沙織なのか。沙織なんだよな!」
「た、か、ゆ、き……」