パンドラの鍵
変 貌
お父さん……、お母さん……、雅美……、そしてお兄ちゃん……。
電気の点っていない暗い子供部屋の中で、雅美はお気に入りの人形
達に名前を付けていた。
お父さんは、メガネをかけているからこの子。
お母さんは、かみが長くて少し目がつり上っているからこの子がい
いかな……。
雅美はもちろん、一番かわいいフランス人形のジュリエットにしよう。
そして―――。
雅美の視線が、部屋の隅に転がっているポッポちゃん人形に向けられ
る。
雅美がまだ幼稚園にも通っていなかった頃、ただただ興味本位で手足
を引き千切った人形だ。
それは、うつろな目で雅美を見ていた。
あなたが、お兄ちゃん………。
雅美は手足のないポッポちゃん人形をごみ箱に突っ込むと、三体の人
形で遊び始めた。
あら、今日はあなた早かったのね。
あぁ、だって今日は雅美の大切な誕生日じゃないか。
まぁ、めずらしい。ちゃんとおぼえていらしたの?
あたりまえだ! ………雅美は?
ケーキの前でまっていますよ。
……………
雅美は、ひとり空想の世界に浸り続ける。