妖怪警察
だいぶ斬りあったのか二人の手が止まった。
「今の黒兄は単に強い妖怪なだけだよ、そのうえ感情・愛情なんてものに縛られて力が出せない……本当に黒兄が反妖怪政府組織の元リーダーだったなんて信じられないね」
「白、そんな昔話にしか過ぎねえことを喋るな!」
「あれ? 今人間には僕らが見えてないんだよ? どうしてむきになるのさ?」
「しまった……」
「いるんだね、三木誠が」
黒さんは黙って白さんを睨みつけることしかしていなかった。
「聞いてた? 三木君僕が言ったことを」
「う……嘘だ!」
「誠! しゃべるな!」
「黙ってられないよ! 聞いてれば黒さんが反妖怪政府組織の元リーダーだったなんて……あんた、黒さんの弟さんさんでしょ? なんでそんなこと言うのさ」
「嘘なんかじゃないさ、それに今の黒兄と血が繋がってるってこと言わないでくれる? こんな妖怪と血が繋がってるなんて思いたくもないからね」
「黒さん、嘘だよね? 反妖怪政府組織の元リーダーだったなんて話」
黒さんは黙ったままだった、ただ唇をかみしめているだけで何も言わなかった。
「黒兄はあの親父に妖怪牢に入れさせられておかしくさせられたんだ! 第三の目が開かないようにね!」
「黒さんのことをこれ以上悪く言うな!」
「あ、バカ誠! 勝手に手を離すな!」
「ありがとう三木君、君が自分から出てきてくれたおかげで君が楽に消せるよ」
黒さんを侮辱するような言葉を言い続けた白さんに乗せられて、僕は我慢できずに暗井の手を離してしまった。
「なるべく心臓を一気に刺して楽に死なせてあげるよ」
【白雷】の槍先が僕の心臓にあたりに向けられて、死ぬのを覚悟した。
「バイバイ、三木誠君」
「誠おー!」
暗井が叫んだ声がした、【白雷】が引かれて僕の心臓めがけて一直線に来てぼくは目を瞑り【白雷】が当たると思ったその時、僕の心臓でなく違うものに当たった音がした。
「く……ろ……さん?」
そう黒さんの背中が【白雷】を受け止めていた。
「あれだけ動くなって言っただろうが……バカ誠」
「なんで、僕の【白雷】が見えた!? さっきのは、僕の最高の速さだったのに」
「これが最速か……まだまだだな、白」
「黒さんの第三の目が……」
「開いてる……」
僕を護った時からか、いつ開いたのかわからないが黒さんのずっと閉ざされていた第三の目が開いていて、漆黒の鋭い光をもった目をしていた。
「第三の目は、開かないようにされたはずなんじゃ……」
「封印されたんじゃねえんだよ、自分で閉じたんだ……こんな目だけで強くなるような俺にならないようにな」
【白雷】を背中から抜いた黒さんは、白さんに向き直ってこう続けた。
「目に頼るお前とそうでない俺とでは違うんだよ」
「どうしてさ……」
「なんだ?」
「どうしてさ、どうして人間をそこまでして護るのさ! 人間は僕ら妖怪をこの世界から追い出したんだよ! それに三木君は、僕らを追い出した陰陽師の子孫だって言うじゃないか!」
「僕が……妖怪を追い出した陰陽師の子孫?」
「そうさ、君のご先祖が僕らを追い出したのさ」
「いや白、人間や誠のご先祖は悪くねえんだよ……むしろ、悪かったのは妖怪の方だ」
「悪いのは妖怪の方?」
「ああ、妖怪が人間を食うっていうタブーを破ったからだ……なんで妖怪が人間を食うなんてことをしたのかは分からねえが、妖怪が人間の旨さに気づかなかったら今でも俺たちは人間と一緒に共存してたんじゃねえのか?」
「じゃあ、僕はなんで今まで人間を憎んでたのさ」
「妖怪が人間界から追い出されて時が経ち過ぎた……今じゃもう追い出されてもしかたないというのを知っている妖怪はいない、だから妖怪が被害者だと勘違いし始めたから俺もお前も人間を憎んだ、人間も妖怪のみんなが悪だと勘違いして憎むようにな」
白さんは、脱力したようにその場に崩れた。
「それにな白、どっちにしろ妖怪はこの世界から追い出されることになってたはずだ……だってそうだろ? 今の人間と妖怪数を足したらそれこそこの世界が崩壊しちまう」
黒さんが【黒迅】を白さんに向けた。
「しばらく妖怪牢で人間と妖怪について考えろ」
「待って黒さん、白さんに聞きたいことがある」
「なんだい?」
「どうして僕を殺そうとしたの? 他の妖怪は僕を食べようとしたのに……」
「それは僕のせめての情さ、妖怪に食べられた魂は妖怪の中に溜まったままになっていつまでも経っても天に召されないからだよ」
「なんだ、ちゃんと愛情をもってるじゃねえか」
「これが……愛情?」
「そう、人間に対する愛だよ」
「そうか、これが愛情……」
「たとえお前だとしても、俺と同じクォーターだからな……人間に対する愛だけが残ってたのは、ばあさんのおがけだな」
「……妖怪界に帰るよ」
白さんは力なくそう言った……黒さんは頷いて【黒迅】を振り下ろした。白さんは足から段々消えていき、肩まで消えたその時白さんは最後にこういった。
「三木君、僕はこれから人間を憎む妖怪たちに本当のことを伝えるよ! だから……だから君は、妖怪のみんながみんな悪でない事を伝えて!」
白さんの目からは一筋の光が走っていた……僕は頷き白さんを見届けた、風が吹いて白さんは風に乗って帰って行った。
そう、僕が妖怪のみんながみんな悪でないことを証明している理由は、白さんの涙の意味を知っていたからだった。
もう二度と僕や白さんのように勘違いをかわす人間と妖怪を出さないように……
これも後日談だが、黒さんが反妖怪政府組織にいた理由は確かに人間を憎んでいたことは本当なのだが、他の理由として将来就きたい職業がなかったからだった。僕が大学のことを話してたあの時、夢を早く見つけろなんて言ったのは、自分の二の舞になってほくしなかったのでそういう事をいったのだとわかった。多分あとで小声でつぶやいていた言葉は、「俺のようになるなよ」だと思う。
白さんのことがあったからか、数日後黒さんが妖怪警察内での昇格が決定した。昇格が決まっても数か月は僕の傍で用心棒をしていたけど、黒さんがいつの日か妖怪界に帰っていってそれっきり会わなくなってしまった。