妖怪警察
僕が黒さんと出会って一週間がたったこの日、黒さんは僕の目の前で十匹目の妖怪を斬り終わっていた。
「ねえ、黒さん斬った妖怪って死んでるの?」
この時の僕は、黒さんにいろいろ妖怪について話を聞けるようにまで仲良くなっていた。
「いや、強制的に牢屋にぶちこまれる」
「それって、黒さんの力なの?」
「うーん、多分こいつの力じゃねえのかな」
そういって、黒さんは刀の鞘の部分を軽く叩いた。
「それじゃ、黒さんがその刀で斬られたら牢屋行き?」
「さあな、でもこいつは俺と契約してるし……自分の持ち主ぐらいわかってると思うぜ?」
「ふーん……」
これは、あとから聞いた話で刀の名前は【黒迅(こくじん)】。
刃の部分が黒いからそう名付けられたらしく、しかもそれを親が息子の名前に合わせて刀を持たせてくれたとのこと。
子供の名前に合わせて刀を持たせる親とは……妖怪にも人間と同じように親バカもいるものなんだと思った。
一つの話が終わったところで、僕がまた何かを黒さんに聞こうとしたとき……
ガサッ
どこからか、何かが動いた音がし僕は言葉を飲み込んだ。
「何者だ! そこにいんのはわかってる、出てきて堂々と戦え!」
いつの間にか僕の前にきて、刀を構えていた黒さんがそういった。すると……
「……やれやれ、私の気配をまだ感じることができんのか……やはり、未熟者だな」
男の声が聞こえたと思った瞬間に影が光の速さで黒さんの後ろにまわって……と思った瞬間にはもう黒さんの背中に刀が突き付けられていた。今思えば黒さんが後ろをとられているのを見たのは、初めてだった。
「黒さん!?」
「くっ!」
「私の跡継ぎには、させられんなあ? 黒よ」
「あ……跡継ぎって、まさか!?」
「まったく……何の用だよ、親父」
「外務中は、総区長と呼べ」
「く……黒さんのお父さん!?」
「いかにも、私が黒の父だ」
黒さんの背中から刀を離して黒さんのお父さんは僕に向き直って敬礼をした。
「妖怪警察・総区長を務めている三眼琥珀だ」
「三木誠です」
総区長っていうのは、妖怪警察での中で分けられている区分での最高の位についている妖怪の役職らしい……つまり、人間界の警察で言う警察署の警視総監の位の人……黒さんは、凄い妖怪の息子だった。
「話は、黒から聞いているよ……なんでも私たちが見えているようだが?」
「はい、はっきりくっきりと見えています」
「うむ、困ったことになったな」
「え?」
「妖怪が見えている血筋の人間は、戦国時代に起こった第一次百鬼大夜行で全滅したとされていてな」
そこで琥珀さんは僕の近くに寄って低い声でこういった。
「まだ、その血筋の生き残りが君だとしたら……間違いなく、君も君の家族も皆殺しにされてしまうだろう」
ゾクっとした、冗談でないことは琥珀さんの目の色でわかった……
「誠、よく聞いてくれ……」
黒さんが、深刻な顔で僕に顔を向けてこう言った。
「今、妖怪界では反妖怪政府組織の勢力が強くなっててな……第二次百鬼大夜行が近々起こるんじゃねえかっていう噂が広まりつつあるんだ」
反妖怪政府組織とは、人間を敵視し、憎み、ただの食材とでしか思っていない組織のことらしい。つまり人間である僕は、生きる価値に値しない存在だという考えを持っている団体のことだという。
「そう、もし今妖怪の見える君が反妖怪政府組織の妖怪に見つかれば……」
「第二次百鬼大夜行の火種になる……」
「今度は、妖怪が見ねえ人間たちも犠牲になりかねない状況だ……」
「誠君、こちらから願いがあるのだが」
「はい、なんですか?」
「しばらくの間、黒を用心棒につけさせてもらえないかね?」
「嫌なら断ってもいいんだぜ?」
「他の人の命もかかってることなんですよね? 断るわけにはいきませんよ」
「なら、決まりだな」
少し笑いの含んだ小声で琥珀さんが僕にこう言った。
「未熟者の黒をよろしくな」
未熟者で思いだした、黒さんは妖怪警察に就職して三百年……
人間でいう三年しか経ってない言わば未熟者のはずなのに
検挙率は警察内でトップ十にはいるほどの凄腕の妖怪だったり
【黒の疾風】なんていう別名を持ってたりしてて驚いたけど
一番驚いたのがめったに後悔しない僕が黒さんと最初に会ったときに「おじさん」なんて言うんじゃなかったって後悔した自分だったりする。
その日の夜は、何もない僕の部屋に黒さんが来ていた。
「やっぱ、人間界って言っても妖怪界とたいして変わんねえな」
「え! 妖怪界にも電気があるの!?」
「あるに決まってるだろ?」
黒さんの話によると、どうやら妖怪界は人間界とさほど変わらないならしく、違っているところは住んでいる生き物の違いだけらしい……僕は、その話を聞くまで妖怪界は人間界でいう平安時代ぐらいの進歩しかしてないと思っていた。
「そっか……なんか、妖怪界に行きたくなってきたよ」
「海外旅行みたいな気分で簡単にいけると思うなよ……でも、まあ誠なら死んだあとに来れるかもしれねえな」
「死んだあと? どうして?」
「たいてい、妖怪の見える人間の魂は神聖すぎて妖怪が食えないことが多いし……それに俺のばあさんは、死んでから妖怪界に住んでるしな」
「ちょ……ちょーっと待った! ってことは、黒さんのおばあちゃんは人間!?」
「あれ? 言ってなかったか? 俺は、人間と妖怪のクォーターだって」
黒さんが人間に愛着がある意味がわかったかもしれない瞬間だった、自分も少し人間であるから妖怪から人間を護っていけるのかもしれない。
「でだ、誠自分が妖怪に狙われてるからって学校休むんじゃねえぞ?」
「わかったって! っていうか僕は、そんなにサボり魔じゃないよ!」