妖怪警察
僕が高校一年生になって間もない、ある静けさに包まれた雨の日に僕はある物に遭遇していた。
「うわ……うそでしょ?」
「クケケケケ」
全長三メートルぐらいの男がそこには立っていた。
何故、全長なんて説明をしたのか? それは……
「首長って女じゃなかったっけ?」
そう、首が伸びていた……
「って、言っている場合じゃない! 逃げないと!」
「逃ガスカ!」
重い荷物があるのを気にせず、僕は咄嗟にその場から走って逃げたが……男が首を僕の足に巻きつけてきた!
「きもい! やめろよ!」
「キモイトカ言ウナ! 何ダヨ、ドイツモコイツモ俺ノコトキモイトカ言イヤガッテ!」
「いや、これ普通にきもいよ?」
「ウルサイ! 人間ハ、黙ッテ俺ニ食ベラレレバイイ!」
「は? 今、食べるって……」
「オ前ハ、何モ知ラナクテイイ」
グワッと鋭い歯が並んだ口が開けられそして、勢いよく僕の顔に近づいてくる!
ああ、もう死ぬんだなとそう諦めていたその次の瞬間に悲鳴が聞こえた。
「グワアアアァァァァ!」
「そこまでだ、首長 長男」
「え?」
ゆっくり目を開いてみるとそこには、黒い髪の男の人がさっきの首長男の顔に刀を刺していた。
「妖怪法律第何条だったか忘れたが、【生き人殺傷未遂】で元の世界へ連行だ」
「もう、顔に刀を刺している時点で連行とか言ってられないよね」
僕の声にびっくりしたのか、男の人は振り返って僕の顔をまじまじと見た。
「お前、俺が見えているのか?」
「うん、ばっちりね」
「まだ、そんな人間がいるなんて……」
「まだ?」
「いや、こっちの話……」
「貴様アァァ! 俺ノ顔ヲヨクモオオォォ!」
「もともと、だめだったじゃねぇか……今のほうがしっくりくるぜ」
挑発してどうするの? と言いたかったところだけど、決着はこの数秒後に決まっていた。
「ウオオオォォォ!」
首長男が黒髪の男に向かって襲いかかったけど、黒髪の男は動かず、冷たく首長男にこう言った。
「三眼家の妖怪を相手にしたことを後悔しろ」
ズバッ
黒髪の男が腰に持っていた刀で、首長男の首を斬った音だった。
「ギィアアアァァァ!」
そのまま倒れた首長男の亡骸が残るのかと思いきや、みるみるうちに紙屑のように消えていった。
「ふう、最近の妖怪どもは手ごたえがねぇな……」
「やっぱり、あれ妖怪だったんだね」
「妖怪って言って、驚かないんだな」
「化け物には、見慣れてるよ」
「そうか……」
「あなたは何者? 妖怪は、妖怪だろうけど人を襲ってないし……」
「俺か? 俺は、妖怪警察の妖怪でな」
「よ……妖怪警察?」
「ああ、その名の通り妖怪の警察だ」
「妖怪に職業なんてあったんだ」
「人間にもあれば、妖怪にもあるはずだろ?」
「考えたことなかった」
少しの沈黙をはさみ、僕は一番気になっていたことをその黒髪の男の妖怪に聞いてみた。
「ねえ、おじさんはどの辺が妖怪なの? 見た目普通の人間なんだけど」
「おじっ!? はぁ、この辺が妖怪だな」
おじさんと言われて一瞬ショックだったみたいだけど、ほうっておいて僕の質問に答えてくれた。
男は、前髪を上げて額に一のようなしわを見せてくれた。
「それって何?」
「第三の眼だ」
「じゃあおじさんは、三つ目なんだね?」
「あのな、俺はこう見えても人間で言えば二十五歳ぐらいなんだからな!」
「十六歳からすれば、おじさんだよ」
「俺は、おじさんじゃない! 三眼(さんがん) 黒(くろ)っていう名前があるんだよ!」
「僕は、三木(みつき) 誠(まこと)だよ、よろしく」
「お……おう、よろしく」
これが僕と黒さんの出会いだった。
黒さんは、あのあと報告があるといって妖怪界に帰ってったけど、その後僕に会うことが多くあった……まるで、妖怪が僕に誘われてくるかのように僕の周りに出てくるからだった。今までこんなことはなかったのに、嫌な予感がしてたまらない。